サメと働く現場より
7. 田向商店の今後の方針(魚価を上げるために)
7-1. 未利用部位の活用、HACCPの取り組み、新商品の開発
私個人の印象から言わせていただくと、これまで上に書いてきたことが、2000年を境に次々と起こってきたように感じております。市場でお正月を前にサメ製品の奪い合いがなくなりました。お正月の料理に「鮫」が使われなくなっていきました。次第に、「鮫なんか食べたことがない」という人が増えてきました。現状に絶望してもなにも良き未来は始まりません。事情がどうであれ、伝統と文化を継承していくためには、何が何でも時代に合う生産・買い付け・加工方法・流通方法・情報提供・商品提案をしていかないといけないと考えています。
2003年に厚生労働省から「妊婦及び妊娠の恐れがある方に対する水銀を含有する水産物の摂食規制」が発表され、一部の大手スーパーの店頭から鮫製品が消えました。弊社のフカヒレを輸出してくれていた業者が廃業しました。一方で、アブラツノザメは漁具等にダメージを与える害魚として、駆除対象にされる事態も出てきました。駆除には補助金が使われるため、駆除されたアブラツノザメを安価で製品化することが可能となります。そのため、当たり前の仕入れ価格では採算が合わない価格でサメ製品が市場にて取引されるようになりました。それをきっかけにして、入札で購入していた同業者の廃業が相次いで起きました。入札をかけても入札が成立しなくなってきました。業者がいなくなってしまったためです。
サメ漁業者がどんどんやめていきました。サメの水揚げが不安定になりました。資源はあっても漁獲努力がされなくなってきたのです。供給が不安定なものは小売店の定番から外されていきます。店頭露出しないものは消費者に利用されなくなっていきます。利用されないものは、その利用方法がかつてはあったことさえも忘れ去られていきます。
私はこの状況に大変な危機感を覚えました。魚の価格を下げれば漁業者さんはサメを獲ってこないのですから、少なくとも単価を維持、または上げないといけません。価格下落する中で弊社の事業を維持させるためにはどうしたら良いだろうかと悩み、かつてお世話になった理研ビタミンさんの故永持孝之進会長に相談いたしました。永持会長の回答は、「未利用部位があるでしょう。それを活用しなさい。捨てているものをなくするようにする努力をしてください」というものでした。
ちょうどそのころ(2004年頃)、ニュージーランドの業者さんから鮫の利用価値について助言をいただきました。その業者さんからアブラツノザメには有効成分が多いことを聞き、私ははじめに軟骨から始めようと思い立ちました。青森県の産業業技術センター(当時は青森県工業総合研究センター)に相談したところ、環境技術研究部内沢秀光研究員(現青森県産技センター工業部門所長)がサケの氷頭軟骨に含有されるコンドロイチン硫酸を測定していることを確認しました。そこで、廃棄していたアブラツノザメの軟骨のコンドロイチン硫酸の量を測定してもらったところ、安定して約30%を含有していることが確認されました。これをきっかけに、青森県の補助金を使ってサプリメントを開発・販売したのが2008年です。その後、当時、青森県総合販売戦略課サブマネージャーであった涌坪敏明氏のご協力を得て、2010年には学校給食にサメ肉の加工品を導入、2012年にはサメの資源管理認証MEL JAPANの加工流通認証の取得、2013年にはグライコスモ故児島薫氏と中小企業団体中央会主査(現弘前支所 所長)古川博志氏の多大なる協力を得てサメ軟骨から高濃度のプロテオグリカン抽出方法を確立し製品化、2014年には水産庁のFast Fishに「サメの蒲焼」を応募し準グランプリを獲得、同年から2年間青森市荒川市民センターにて「サメ料理教室」を実施、2018年には食品安全のために大日本水産会の水産HACCP取得、2020年には販売時の温度帯の変更が可能な「サメの煮つけ輪切り」の開発、そして2021年には、減る一方のアブラツノザメ魚肉の利用を増やすために、練り製品を直接自分で企画販売しようと思い立ち大量にサメ肉をいれた「サメ肉いりボタン竹輪」を復活させました。
7-2. 「サメ食」地域との連携、「サメ食文化」の継承
このような活動の他に、2015年から2017年まで青森市荒川市民センターにてサメ料理教室の開催を行いました。さらに、青森にとどまらず函館にてサメ料理のご紹介に係ることになりました。2016年11月10日に日本板鰓類研究会の大御所仲谷先生のお誘いをうけて、函館短期大学付設調理製菓専門学校にお招きいただき、函館でも漁獲されているモウカザメやホシザメ、アブラツノザメを使ったフランス料理調理実習に立ち会わせていただきました。仲谷先生のサメのレクチャーや、当方のサメ食の説明などで盛り上がりました。北海道新聞さんの取材もありました。当方はこの取り組みにレシピ作りとして参加させていただきました。この取り組みには、新型コロナウィルスが蔓延し始めた2019年以降は残念ながら参加させてもらっていません。仲谷先生の積極的なご活動には頭が下がります。当方一人で活動するのではなく、ほかの方々と一緒に行うのは大変楽しいです。今後は、全国の同業者や関係者と協力して様々なメディアに参加し、「サメ食文化」に関する情報発信をしていく所存です。
繰り返しますが、伝統と文化の継承というものは、時代に合う生産・買い付け・加工方法・流通方法・情報提供・商品提案を、常にアップデートしてアピールしていく必要があります。食べてもらう機会が減ったら、食べてもらえるような工夫です。かつて、「魚余り」や「魚不足」が何度も起きました。その都度、「魚肉ソーセージ」や「かに蒲鉾」などの商品開発や、輸入、すり身技術の革新によって、その危機を乗り越えてきました。情報が不足しているなら、何度でも情報をアピールしていくことが必要です。単価を上げていくためには、廃棄率を下げる工夫も必要でしょう。
今後もこうした努力を延々と続けていきたいと考えています。
〔関連リンク〕
*1 Aから始まる理研ビタミンストーリー
*2 日本かまぼこ協会(かまぼこ製造の歴史)
*3 青森県庁「青森のうまいものたち」から
*4 イゲタ沼田焼竹輪工場「ボタン竹輪」
*5 さんじるし丸石沼田商店「ボタン竹輪」
*6 マルヨ水産「ボタン竹輪」
*7 スギヨ「ビタミン竹輪」
*8 大学発!美味しいバイオ2009年第9号
*9 宗像漁業協同組合「のうさば」
*10 ぼうずコンニャク「ふか湯引き」
*11 神茂「サメはんぺん」
*12 The Spiny dogfish (Squalus acanthias) in the north west pacific and a history of its utilization,
*13 シラーロッケン
*14 フジタフーズ
*15 伊勢魚春「さめのたれ」
*16 佐藤敬商店「焼ざめ」
*17 WWF香港
*18 国立研究開発法人 水産研究・教育機構
*19 NOAA
*20 田向商店 販売ページ
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