サメと働く現場より
2. サメ食文化
2-1. サメ肉の特徴
サメ肉は、不飽和脂肪酸を含み健康に良いとされています。塩味を感じやすいので薄味で美味しく食べられ減塩料理向きです。一方、サメ肉は尿素と血液が多いため独特の香りがしますが、水さらしすると全く気にならなくなります。サメ肉は、頻尿予防や(個人的な感想で、科学的なエビデンスは未確認)、骨密度を上げる効果もあるようです *8。
2-2. 歴史、地域、食べるサメの種類
青森県では、縄文中期から後期のものとされる三内丸山遺跡の貝塚からアブラツノザメの背鰭棘が発見されており、当時から食用にされていたと推測されています。青森県のアブラツノザメ料理は、特にお正月に食べられる習慣がありました。現在では、青森市ではほとんどその習慣がなくなってしまいました。30年以上前までは、お正月近くになるとお客様同士でサメ肉の奪い合いがあったものです。弘前、西北五、八戸ではまだ根強い人気があります。青森における食し方は、醤油(と味醂または酒)に肉(背肉、ハラス)を漬け込んで焼く「つけ焼き」、頭を煮てほぐした肉と煮た背肉やハラスを酢味噌と大根おろしに和える「スクメ」、頭を煮てほぐして固める「べっこう」、刺身に切って酢味噌で食べる「ヌタ」、サメ肉を白くなるまで水にさらしてから塩をあてご飯に挟んで押して作る「飯寿司」があります。「つけ焼き」は青森県全域(特に弘前を中心とした津軽地方)、「すくめ」「べっこう」は太宰治の出身地金木(現つがる市)と五所川原、鰺ヶ沢、深浦を含む西北五地域、刺身に切って酢味噌で食べる「ヌタ」は八戸と大館(青森県よりの秋田県~弘前の商圏)となっています。
また、アブラツノザメは、皮をむいたドレス状態(ハラスをつけたり欠いたりします)で秋田、岩手、宮城、山形、福島(郡山)、栃木(宇都宮)、茨木、埼玉、長野、新潟で食されます。秋田や山形では「刺身」と「煮つけ」、郡山や宇都宮、茨木、埼玉、長野、新潟では「煮つけ」が主流です。どの地域でも需要は減少の一途をたどっていますが、宇都宮や郡山では現在もお正月にサメを食べる習慣がしっかり残っています。
この他、青森県ではアブラツノザメだけでなく、モウカザメ(ネズミザメ)の食利用も盛んです。青森県ではモウカザメを「カトウ(サメ)」「カド(サメ)」と呼びます。「みちのく食物誌(木村守克著)」によれば、その語源は二種類あって、ひとつは春に漁獲されるニシンの別名が「カド」であり、このニシンを追ってモウカザメがやってくることから「カド(サメ)」と呼ばれるようになったという説、もうひとつが、江戸時代天保頃に青森県下前(したまえ)の漁師である加藤音吉が大量に漁獲し、弘前藩に献上して普及したという説があります。この本では後者を有力として紹介していますが、自分もそうではないかと思っております。このサメの呼び名「カトウ」という言い方ですが、「カトウ」から「カド」への転換は容易に想像できますが、「カド(ニシン)」から「カトウ」に派生するとは津軽弁の言い方からしてどうしても腑に落ちないからです。
モウカザメの食地域は、西北五地方、弘前を中心とした津軽地方のほかに、野辺地や十和田といった南部地方にまで広がっています。野辺地や十和田では、アブラツノザメは食べずモウカザメが主流です。昔は、陸奥湾内の東南で下北半島の付け根に位置する野辺地にたくさんのモウカザメが水揚げされたといいます。食べ方は、「つけ焼き」や「煮つけ」、「すくめ」、「刺身」で、特にお正月の料理として珍重されてきました。こちらの需要も減る一方です。2000年前まではイタリアなどに輸出もされていて価格も高かったですが、どうやら制限がかかっているという話があって、それ以降安値安定です。青森における需要はやはり減る一方です。
ホシザメも青森ではよく食されるサメとして挙げることができます。食べる地域は平内地域でした。過去形になっているのは、もはや食べる人がいなくなってほとんど需要がなくなってしまったからです。食べ方は、生食もしくは茹でて酢味噌につけて食べる「ヌタ」や「スクメ」です。ちなみにこのホシザメは、ほかの地域では現在もよく利用されているサメです。北九州では「ノウサバ」と言って、開いて干したものを正月やお盆に煮つけて食べます。広島では「ノウクリ」といって刺身や焼き物に、関東では高級「はんぺん」に利用されます。日本橋「神茂(かんも)」さんでは年に一度ホシザメ(普段はヨシキリザメとアオザメ使用)を使った昔ながらの「はんぺん」を復活させて販売されているようです。中央線沿線の練り物屋さんでも使われているようです。
アオザメは、九州では最高級「さつま揚げ」の原料にされていたということです(故東京大学中村雪光氏の話)。九州ではホシザメのほかに、ネコザメやギンザメを煮て酢味噌で食べる「もだま」があります。ギンザメはニュージーランドから輸入しているようです。
西日本で最もサメ肉を食しているのが広島県三次市です。広島三次では、オナガザメ(とくにハチワレ)が人気で刺身として今も利用されています。こちらでは「わに」と呼びます。
和歌山県では伊勢神宮の神饌である「サメのたれ(味付けして干したもの)」を製造し利用しています。原材料はヨシキリザメやアオザメ、ドチザメ、シュモクザメです。神事とサメの関係については興味深い調査があります(「鮫(矢野憲一著)」)。
海外に目を移すと、サメは古くから多くの国で使用されているようです。(The Spiny dogfish (Squalus acanthias) in the north west pacific and a history of its utilization, *12)
イギリス
フィッシュ&チップス(安めの価格帯)に使用されているようです。一般的には真鱈。イギリスでは特にサメをメインにしたフィッシュアンドチップスを扱っているお店を「EEL BAR」と呼んでいることが、「イギリスはおいしい(林望著)」に書かれてあります。
ニュージーランド
青森近海でアブラツノザメの漁獲量が不安定となって、同業者の廃業が目立ってきたので、海外からアブラツノザメを輸入してみようと考えました。2018年にニュージーランドに行きました。ニュージーランドのフィッシュアンドチップスは、鱈(Cod)、ミナミアオトラギス(Blue Cod)、オヒョウ(Turbot)は高いですが、何も書いていないものはさほどでもありません。これがサメだということでした。使用されているサメの種類は、ホシザメとイコクエイラクブカが主流だということでした。アブラツノザメはそうでもないと言っていましたが、後で調べるとかなりの量を使用しているようでした。また、ニュージーランドではイコクエイラクブカは自国向けだけではなくオーストラリアに大量に輸出しており、ギンザメは日本に、アブラツノザメは中国と韓国に輸出しているということでした。
ドイツ
シラーロッケン(Schillerlocken)というアブラツノザメのハラスの燻製が人気のようです。フリードリッヒ・シラーのヘアスタイルであるカールした巻き髪の形状がその名前の由来のようです。アブラツノザメのハラスを加熱するとくるくると捲れて丸まってきます。その形が昔ヨーロッパ人のつけていた鬘の巻き髪のようであることからこの名前が付いたという説もあります。ハラスだけではなく背肉も燻製にされています。原料は主に米国から輸入されているようです。
イタリア
ネズミザメやアブラツノザメ、ホシザメなどが食されているようです。