ルポ 2022/11/21   2022/12/29    樽本 龍三郎

サメ漁業とフカヒレの流通

『水産世界』昭和五十一年八月号

故樽本龍三郎先生が2011.8.15 Word版として改訂されていたものを転載・さめディアに掲載するために編集したものです。

最近、にわかにサメが見直されている。
サメの体内に含有する化学物質は大きな可能性を秘められている。それにサメは新しいタンパク資源になりうるかもしれない。
しかし、サメの利用といえば、フカヒレか練製品ということになる。実際、サメの肉はすり身にして練製品に混ぜてしまうか、塩干しにして加工するぐらいかで肉としては劣等品である。
サメの中で一番価値を持つのはフカヒレであり、消費者にとっては高根の花である。
そこで全国のサメの漁業とフカヒレの流通の現状をおおざっぱながら述べてみたい。

サメ漁は漁家漁業 ―宮崎―

日向灘の北の端、宮崎と延岡のちょうど中間に、美々津(ミミツ)・都濃(ツノウ)・川南(カワミナミ)という小さな漁村が並んでいる。地元の人はこの浜を「とおり浜」と呼び、サメのよく獲れることで知られている。
この地方のサメ漁は全般に零細で、3~5トンの船に3,4人が乗りこむという、典形的な漁家漁業である。

通り浜の漁船
通り浜の漁船

サメ漁の形態は美々津(ミミツ)・都濃(ツノウ)と川南(カワミナミ)とでは異っている。
美々津・都濃では、もっぱら刺網によってサメを獲っている。このサメ刺網は漁期が定められていて、それは7月から10月31日の間である。獲れるサメは、シロザメ、ホシザメの類(2、3キロもの―宮崎地方ではこれらのサメをノソという、それとツマグロ、ツマル(地方名)の未成魚(7、8キロ)である。ただし、これらの小さなサメからはフカヒレはとれない。シロザメとホシザメは、宮崎で「ゆがき」と称して食べられている。これは、サメの肉を薄切りにして、さっと湯にとおし、酢みそで食べる。しかし、ゆがきにはサメ特有のくさみがあり、慣れた人しか食べられないだろう。漁の状況は、大漁のときなど500から1,000キロの水揚げがある。そんな時は一晩に3回も4回も網揚げをして、そのつど漁場を移動しなくてはならない。それにしても、誰かの網にサメがかかると、サメが岸に寄ってきたということで、それをめやすにサメ漁を開始するのだから、極めて原始的である。一方、川南では、延縄でサメを獲っており、これは年問を通じて行なわれている。ここでは、獲れるサメの種類とその漁期によって2種類の延縄を使い分けている。そのひとつは、小型のシロサメ、ホシザメ、ツマグロ、ツマルを対象にした小型の延縄で、漁期は夏場の8月。釣獲率は極めて低く、一晩に2、3尾しかとれない。

大型のサメの尾びれを干しているところ
大型のサメの尾びれを干しているところ

それと、もうひとつは、大型ザメ用の延縄であって、主として冬場の2月~3月に行なわれる。やはり、釣獲率は低く、一晩に10尾あまり。こうしてみると、漁獲努力の割に水揚げが少なく、サメ漁だけでは生活が成り立たない。
川南の漁業協同組合では、サメの体とヒレを切り離して、別々に売っているのが大きな特徴である。フカヒレに供されるサメは大型の延縄でとられたもので、その種類は次のとおりである。
ドタブカ(150~200キロ)、ツマル、ツマグロ(120~150キロ)、シュモクザメ(200~250キロ)、比較的小さいナエタ(30~80キロ)。

吉田商店

川南に吉田商店という海産物加工業者があり、この一軒だけがフカヒレを扱っている。吉田商店は漁協から生ビレ(乾燥させる前のヒレ)を入荷しており、その浜値(生ビレの1キロ当り価格)はサメのキロ当たり価格のおよそ3,4倍である。

吉田商店は生ヒレの入荷状況によって夏ビレと冬ビレに分けている。夏場はフカヒレの材料となるサメ類の水揚げが少なく、そのサメも全体に小さい。このときのヒレを夏ビレといい、値が安い。冬場は大型サメ類の水揚げが多く、その時のヒレを冬ビレといい、値が高い。
フカヒレの出荷に際しては、40キロを一梱包にしている。この時、フカヒレは背ビレ、胸ビレ、尻ビレ、尾ビレを一組にする。その出荷先は神戸、大阪、京都である。

吉田商店
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