論文 2025/03/19   2025/03/20    竹渕 泉

発酵の視点から見た上越サメ食文化の研究

4.日本におけるサメの資源状況

4-1.日本におけるサメ類の捕獲状況

サメ類の中で日本における水揚げ量が多いのは、外洋性の「ヨシキリザメ」「ネズミザメ」「アオザメ」及び沿岸性の「アブラツノザメ」である 1)。ここでいう「水揚げ量」とは、獲った魚のうち、港に水揚げされた魚の重さであり、生息場所については、陸に近い方から、沿岸性、沖合性、外洋性となっている 2)。上越地域で主に食用とされている「ヨシキリザメ」「ネズミザメ」「アブラツノザメ」の捕獲状況は以下の通りである。
「ヨシキリザメ」の多くは、まぐろ「はえ縄漁」によって多く混獲されており 3)、水揚げは加工設備が整っている宮城県気仙沼港が中心になっているとのことである 1)。水産庁委託事業の1つとして行われている、「まぐろはえ縄漁業等による日本の主要漁港のサメ類の種別水揚げ量調査」によると、「ヨシキリザメ」の水揚げ量は、1992~2020年(平成4年~令和2年)で年間5,100~16,000(平均:10,388)トンであった。2001年(平成13年)をピークに減少傾向で、2011年(平成23年)の水揚げ量は東日本大震災の影響で激減しているが、2012年(平成24年)は震災前年のレベルにまで回復し、その後は6000~7000トン前後で安定している(図4-1)3)。外洋性サメ類の水揚げ量全体に占める「ヨシキリザメ」の割合は60~75%であり、近年は60%前後を推移しているとのことである 1)

図4-1.日本の主要漁港への「ヨシキリザメ」の水揚げ量(資料 1) をもとに作成)
図4-1.日本の主要漁港への「ヨシキリザメ」の水揚げ量(資料 1)をもとに作成)

「ネズミザメ」は主として、「はえ縄漁」や「流し網漁」によって漁獲されており 4)、その多くは、宮城県気仙沼を中心とした東北地方で水揚げされている 1)。「流し網漁」は、魚の通り道に帯状の網を仕掛け、一定の時間漂流した後、その網に魚を絡めてとる漁法である。「ネズミザメ」の水揚げ量は、1992~2020年(平成2年~令和2年)ではえ縄漁が289~2926トン、流し網漁が270~2029トン、全体では1136~4406トンであった。水揚げ量は2004年(平成16年)頃までは緩やかな増加傾向が見られ、その後2009年(平成21年)までは増減を繰り返しながら推移している 4)。2011年(平成23年)は、東日本大震災の影響で大幅に減少して1136トンであったが、2012年(平成24年)に3075トン、2015年(平成27年)には3512トンが水揚げされ、震災前のレベル(1992~2010年(平成4~22年)の水揚げ量の平均:3001トン)にまで回復した 4)。2016年(平成28年)の減少は、「流し網漁」による漁獲が減ったことが原因であり、2020年については、「はえ縄漁」による水揚げの減少が原因とのことである(図4-2)4)。外洋性サメ類の水揚げ量全体に占める「ネズミザメ」の割合は14~30%であり、近年は一部の年を除き30%前後を推移しているとのことである 1)

図4-2.日本の主要漁港への「ネズミザメ」の水揚げ量(資料 1) をもとに作成)
図4-2.日本の主要漁港への「ネズミザメ」の水揚げ量(資料 1)をもとに作成)

「アブラツノザメ」は、「底びき網漁」や「はえ縄漁」によって漁獲されており 1)、北海道と東北地方を中心としてとられているようである 1)。「アブラツノザメ」は多くの統計資料では、「サメ類」として他種と一括して扱われているため、単一種としての漁獲量は明確になっていないとのことである 5)。しかし、1953~1967年(昭和28~42年)の一時期にのみ、都道府県の「アブラツノザメ」の漁獲統計が整備されていたことから、この資料を元に都道府県別にサメ類の漁獲量に占める「アブラツノザメ」の割合を求め、その割合と各年のサメ類漁獲量から「アブラツノザメ」の漁獲量が推定されている 5)。「漁獲量」とは、漁船がとった魚全部の重さのことで、「水揚げ量」とは異なる。「アブラツノザメ」の推定漁獲量は1990年(平成2年)以降2000~4500トンで比較的安定して推移しており、近年(2015~2019年(平成27年~令和元年))は2300~3300トンが漁獲されている 5)

「サメ類の保護・管理のための日本の国内行動計画」のもとで、国内専門家グループによる、サメ類の資源状態の評価を行うための会合が定期的に開かれるとともに、情報を充実させるためのデータ収集及び調査が継続的に実施されている 1)。「サメ類の保護・管理のための日本の国内行動計画」とは、1999年(平成11年)に採択された「FAOサメ類保存管理のための国際行動計画」に基づき、サメ類の適切な保存及び管理を行うため、日本の漁業によるサメ類資源の影響を客観的、化学的に解析し、国際的に合意された実施規範を勘案した計画である 6)
上越地域で食用とされているサメの2021年度(令和3年度)における資源状態の評価を表4-1にまとめた。表中の「資源水準」とは過去20年以上にわたる資源量(漁獲量)の推移から、「高位・中位・低位」の3段階で区分した水準であり 7)、「資源動向」は、資源量の過去5年間の推移から「増加傾向・横ばい・減少傾向」に区分したものである 7)。資源動向は「安定的に横ばいに推移」と評価している 3) 4) 5)。なお、「アブラツノザメ」の津軽海峡での減少傾向は、長期的な変動の範囲内と考えられている 5)。この資源評価は、日本が水産資源としているサメ類は、絶滅の危機には瀕しておらず、持続可能な範囲で利用されていることを示している 8)

表4-1.サメの資源状態の評価

サメの種類資源水準資源動向
ヨシキリザメ高位横ばい
ネズミザメ調査中横ばい
アブラツノザメ中位東北太平洋側では横ばい傾向
津軽海峡では減少傾向

4-2.サメ類のフィニング問題と有効利用

現在、漁獲したサメ類については、その完全利用(頭部、内臓及び皮を除く全ての部位を最初の水揚げまたは転載まで船上に保持すること)が義務付けられている 1)。また、2019年の中西部太平洋まぐろ類委員会(WCPFC)では、「水揚げまでヒレを胴体から切り離さない」または「船上では切り離したヒレと胴体を同じ袋に保管する等の代替措置を講じる」という点において合意がなされている 1)。「サメ類の保護・管理のための日本の国内行動計画」においても、採捕したサメのすべての部分(頭部、内臓及び皮を除く。)を陸揚げまでの間、船上において所持することが義務付けられている 6)。これらは、IUU漁業(違法・無規制・無報告の漁業)への対策である 6)。中でもフィニング(生きたままのサメからヒレの部分だけを切り取り、残りの魚体の部分をそのまま海に投げ捨てること)は、国際的にも問題になっている。
日本は他国と比較しても無駄のないサメ類利用を行っている状況であるとのことで、その一例として、気仙沼があげられる。気仙沼では、サメ肉は練り製品の原料として、皮は財布やバッグ等の製品、骨や肝臓はコンドロイチン硫酸や肝油等の健康食品の材料になるなど、有効利用がなされている 6)。ヒレを取り除いたサメを、捨てずに食用とする点において、上越地域におけるサメ食文化は、エシカルかつサスティナブルな食文化であると考える。

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