論文 2025/03/19   2025/03/20    竹渕 泉

発酵の視点から見た上越サメ食文化の研究

2-3.郷土料理としてのサメ食文化

ひと昔前の上越では、年末にサメを1本買いし、大晦日にはお平(煮物)、年明けには雑煮、小正月には残った皮を使って煮凝りを作る習慣があったとのことである 1) 2)。1918年(大正7年)12月28日発行の高田新聞においては、「年末の鮮魚=フカ鮫は少ないが近年稀に品数豊富=」の見出しで、「フカ鮫=此れもぶりと同じく年取り魚だが、産地は三陸が主なる所で本年は非常に不漁の為め入荷も僅かなもの、従つて一貫目(約3.75㎏)四円から五円(見欠け)トテもフカフカと食べられない」と伝えられている 3)。この記事からは、上越の人々にとってはサメが「年取り魚」であることや、大正当時からサメの主な産地は、現在と同様、三陸であったことを読み取ることができる。
近年、上越地域において、サメ肉は通年で購入することができるが、そのほとんどは三陸(気仙沼)産である。一方、サメの皮が店頭に並ぶのは年末の限られた期間であるが、これは先述の「年取り魚」としての食文化の名残であると考えられる。また、地域で行われるイベントや市内の飲食店などでもフライやナゲットといったサメ料理を食べることもできる。学校給食でサメの献立が出ていることも知られており、様々な形でサメ食文化を継承する試みが行われている。

(1)煮凝り

煮凝りは、サメの皮(図2-19)を酒や醤油などと煮込んだ後に冷やした料理で、皮に含まれるゼラチン質が溶け出し固まり、コリコリした皮の食感が残る 4)。煮凝りは一般家庭と料理店では作り方に違いがあり、中原は「料理店では身がほとんどない頭の皮ばかりを使いますが、家庭では皮付きの身を煮込みます。とろみがある煮魚といったところでしょうか」と解説している 4)。煮凝りは上越市の郷土食にもあげられている 2)

図2-19.サメの皮の写真
図2-19.サメの皮
図2-20.サメの皮 下茹で後の写真
図2-20.サメの皮 下茹で後
図2-21.煮凝りの写真
図2-21.煮凝り 6)

煮凝りの作り方は下記の通りである 1) 5)。サメの皮はそのままでは料理に利用することができないため、下茹でした後に、水中でザラザラした表面の部分(楯鱗:じゅんりん)を取り除く必要がある(図2-20)。

① サメの皮を下茹でし、水の中でザラザラした表面の部分(楯鱗)を指で取り除く。
② 皮を細かく切り、皮と水と生姜を入れた鍋で10~20分くらい弱火で煮込む。
③ アクをとり、調味料(醤油、酒、砂糖など)を加えて5分くらい煮込む。
④ 型に流し込んで固まったら、食べやすい大きさに切る。

(2)ぬた(酢味噌和え)

ぬたは、魚介や野菜等を酢味噌で和えた料理で、ぬたなますとも呼ばれる。サメのにおい(アンモニア臭)を和らげるために酢味噌和えにしたものと推測される。なますは醤油ができる前までの生魚を食べる際の調理方法であることから 7)、生のサメを食べたいという思いを反映した調理方法であるとも考えられる。

図2-22.ぬた(酢味噌和え)の写真
図2-22.ぬた(酢味噌和え) 6)

ぬたの作り方は下記の通りである 1)

① サメ肉(尾に近い部分)を食べやすい大きさに切る。
※ 皮の場合は煮凝り同様に、下茹でをして表面のザラザラした部分を取り除き、細かく切る。
② それぞれを香味野菜(ウド、ニラ、ネギ、ノビルなど)とともに酢味噌で和える。

なお、同じぬたでも「船霊さんの正月につくられる料理」として紹介されている「さめぬた」もあり、作り方は下記の通りである 8)

① 大根を鬼おろしで粗くおろし、軽く水を切る。
② 酢、砂糖、塩で味をつけておろしなますを作る。
③ サメの身を酢でしめて、おろしなますと和える。

(3)煮物(お平)

煮物は、レンコン、ニンジン、ゴボウなどの野菜を入れて作られるが、明治時代には、高田城のお堀で栽培されたレンコンが使用されていたとのことである 2)。お堀のレンコンについては、1871年(明治4年)、戊辰戦争や凶作により悪化した高田藩の財政を立て直すために、戸野目の大地主・保阪貞吉が私財を投じてハスを植えたことが始まり 9)とされている。

図2-23.煮物(お平)の写真
図2-23.煮物(お平) 6)

煮物の作り方は下記の通りである 1) 2)

① サメの切り身にレンコン、ニンジン、ゴボウ、長芋、焼き豆腐などを入れて、サメの出汁と醤油と酒で煮る。
② 汁は冷めるとゼラチン状になるため、盛り付け前にもう一度温める。

(4)雑煮

「サメがなければ正月が来ない」という言葉からもわかるように 2)、一般家庭ではサメの肉を使った雑煮も作られていたようである。

図2-24.雑煮の写真
図2-24.雑煮 6)

雑煮の作り方は下記の通りである 1) 2)

① サメを一口大に切って汁の中に入れる。
② 大根、ぜんまいの水煮、つきこんにゃく、焼き豆腐、青菜が具として入る。

(5)学校給食
1) 学校給食におけるサメ食献立

上越市HP 10)に掲載されている「給食献立表・給食だより」をもとに、上越市立の小・中学校においてサメ食献立が出されている時期と種類について整理をしたものが表2-5と表2-6である。結果として、全ての小・中学校においてサメ食献立が出されていたが、12月と1月に集中する傾向にあった。
献立表には「ふるさと献立」「大雪献立」「小正月」といった併記のある例も見られたが(図2-27~29)、これは、前述の「年取り魚」としてのサメ食文化を意識したものと推測される。献立には、フライ、唐揚げといった調理方法や、カレー、生姜、ケチャップといった調味料の工夫が施されており、児童・生徒が普段はなじみのないサメ肉を抵抗なく食べられるように配慮がなされているものと考えられる。
サメ食献立は、2021年度(令和3年度)においては、各校少なくとも年に1回、多い学校では4回 11)、2022年度(令和4年度)も2023年1月時点で、1~3回出されていることになる。

表2-5.上越市立の小学校の学校給食におけるサメ食献立の時期と種類(2021年(令和3年)12月~2023年(令和5年)1月について)
表2-5.上越市立の小学校の学校給食におけるサメ食献立の時期と種類(2021年(令和3年)12月~2023年(令和5年)1月について)の地図表1 表2-5.上越市立の小学校の学校給食におけるサメ食献立の時期と種類(2021年(令和3年)12月~2023年(令和5年)1月について)の地図表2 表2-5.上越市立の小学校の学校給食におけるサメ食献立の時期と種類(2021年(令和3年)12月~2023年(令和5年)1月について)の地図表3
図2-25.上越市立の小学校の分布(図中の数字は表2-5に対応)の地図
図2-25.上越市立の小学校の分布(図中の数字は表2-5に対応)
表2-6.上越市立の中学校の学校給食におけるサメ食献立の時期と種類(2021年(令和3年)12月~2023年(令和5年)1月について)
表2-6.上越市立の中学校の学校給食におけるサメ食献立の時期と種類(2021年(令和3年)12月~2023年(令和5年)1月について)の地図表1 表2-6.上越市立の中学校の学校給食におけるサメ食献立の時期と種類(2021年(令和3年)12月~2023年(令和5年)1月について)の地図表2 表2-6.上越市立の中学校の学校給食におけるサメ食献立の時期と種類(2021年(令和3年)12月~2023年(令和5年)1月について)の地図表3
図2-26.上越市立の中学校の分布(図中の数字は表2-6に対応)の地図
図2-26.上越市立の中学校の分布(図中の数字は表2-6に対応)
図2-27.2021年(令和3年)12月 安塚中学校 学校給食献立表より(一部抜粋)
図2-27.2021年(令和3年)12月 安塚中学校 学校給食献立表より(一部抜粋)
図2-28.2021年(令和3年)12月 大潟町小学校 学校給食こんだて表より(一部抜粋)
図2-28.2021年(令和3年)12月 大潟町小学校 学校給食こんだて表より(一部抜粋)
図2-29.2022年(令和4年)1月 中学校(合併前上越市) 学校給食献立表より(一部抜粋)
図2-29.2022年(令和4年)1月 中学校(合併前上越市) 学校給食献立表より(一部抜粋)
2) 小学校の学校給食におけるサメ食献立の実践

上越教育大学附属小学校(以下、「附属小」)において、サメ食献立の実践を見学した(表2-7)。

表2-7.附属小におけるサメ食献立
表2-7.附属小におけるサメ食献立

6月29日の見学に先立ち、附属小の栄養教諭である佐藤花背先生にサメ食献立に関するお話をうかがった(表2-8)。当日、6年2組における佐藤先生の講話を見学したが(図2―33)、その内容は、サメの大きさや上越地域でサメ料理が食べられる場所に関するものであった。さらに、当日の献立である「さめのみそ漬け焼き」がどのように作られたのかについて、調理過程の写真を添えて解説していた。給食後に佐藤先生の講話内容を踏まえたアンケートを実施したが、その詳細については「資料」に掲載している。

表2-8.サメ食献立に関する質問内容及び回答
表2-8.サメ食献立に関する質問内容及び回答
図2-30.さめのみそ漬け焼き 調理過程①
図2-30.さめのみそ漬け焼き 調理過程①
図2-31.さめのみそ漬け焼き 調理過程②
図2-31.さめのみそ漬け焼き 調理過程②
図2-32.さめのみそ漬け焼き 調理過程③
図2-32.さめのみそ漬け焼き 調理過程③
図2-33.栄養教諭による講話の様子(6月29日)
図2-33.栄養教諭による講話の様子(6月29日)

12月7日は、5年1組において「上越のお正月とサメ食」についての講話があり児童に、上越でお正月にサメを食べる文化があるのはなぜかについて解説したり、家庭でサメを食べた経験について尋ねたりしていた(図2―34)。佐藤先生が、60年前の高田地区の写真を見せながら、「雪の中にサメを入れて保存していた。」「サメは冬場の貴重なタンパク源だった。」といった話をしたところ、児童からは「雪室に似ている。」「雪が降ったら、また給食にサメを出して欲しい。」といった声を聞くことができた。5年1組(34名)の中で、家庭でサメを食べた経験のある児童は15名ほどであり、その様子からはお正月の行事食というよりは、日常的に食べている家庭が多いという印象であった。佐藤先生の話が終わった後、児童数人にシャークナゲットを食べた感想について尋ねたところ、味については、「肉と魚の中間くらい」「白身魚に近いと思った。」「くさみはないけど、魚っぽさがある。」といった感想を聞くことができた。他にも、「今日食べているサメはどのくらいの大きさ?」「人を食べちゃうサメ?」「なんていう名前のサメですか?」「そのサメはいつからいるの?」といったサメ自体に興味を示す様子も見られた。

図2-35.栄養教諭による講話の様子(12月7日)
図2-35.栄養教諭による講話の様子(12月7日)
(6)地域イベントや飲食店などにおけるサメ料理

高田城址公園では、毎年、桜の開花に合わせて、様々なイベントが開催されるが、2022年(令和4年)3月26日から4月17日に開催された「第97回高田城址公園観桜会」の出店店舗(「キッチンスタジオ いべまり」)においては、サメカツ(「サメのロングカツ串」)とフィッシュ&チップス(「サメのフィッシュ&チップス」)が販売されていた(図2-36)。

図2-35.出店店舗(「キッチンスタジオ いべまり」)の外観
図2-35.出店店舗(「キッチンスタジオ いべまり」)の外観
図2-36.「サメのロングカツ串」(2022年(令和4年)4月4日撮影)
図2-36.「サメのロングカツ串」(2022年(令和4年)4月4日撮影)

同観桜会期間中に開催された「高田本町 春のパン祭り(4月2日・9日開催)」においては、出店店舗(「REGINA SWEETS & BAKERY」)がサメのカツサンド(「サメかつさんど」)を販売していた。お店の方にインタビューしたところ、通常、店頭販売はしていない商品であるが、観桜会で他県からも人が訪れるため、上越市の食文化を紹介したいという思いで販売することにしたとのことであった。カツサンドの中身は、サメカツが2つ、キャベツ、タルタルソースであった(図2-37)。

図2-37.「サメかつさんど」(2022年(令和4年)4月9日撮影)
図2-37.「サメかつさんど」(2022年(令和4年)4月9日撮影)

高田本町商店街で2022年(令和4年)10月22日と23日に開催された「越後・謙信SAKEまつり2022」の出店店舗(「キッチンスタジオ いべまり」)においては、サメかつ(「サメのタレかつ串」)が販売されていた(図2-40)。

図2-38.出店店舗(「キッチンスタジオ いべまり」)の外観
図2-38.出店店舗(「キッチンスタジオ いべまり」)の外観
図2-39.「サメのタレかつ串」を含むメニュー表
図2-39.「サメのタレかつ串」を含むメニュー表
図2-40.「サメのタレかつ串」(2022年(令和4年)10月23日撮影)
図2-40.「サメのタレかつ串」(2022年(令和4年)10月23日撮影)

「無印良品 直江津」においては、地元の名人たちから様々な事柄を教わることを目的とした「名人ワークショップ-地元のプロに教わろう」というイベントが開催されている。その第1回目「地元のプロに教わろう サメ名人・井部真理さん」が、2021年(令和3年)7月31日に実施された。参加者は15人ほどで、前半では実際のサメの皮に触れたりしてサメについての学びを深め、後半では、サメカツを用いたバーガーを作り、試食を行った。

図2-41.ワークショップで調理したサメバーガー
図2-41.ワークショップで調理したサメバーガー

上越市立水族博物館「うみがたり」にある、レストラン「レストランテ ロス クエントス デル マール」では、サメフライ(「シャークナゲット」「サメフライパニーニ」)が販売されている(図2-42)。「うみがたり」では「ドチザメ(図2-43)」「ネコザメ」「トラザメ」「イズハナトラザメ」など多種のサメが飼育されているため、サメフライメニューはそれも考慮に入れての販売かと思われるが、訪問した日も3組ほどの親子が「シャークナゲット」を購入していた。また、店内ショップ「レガーロ」ではサメのぬいぐるみが山積みで販売されており、来館者のサメについての興味・関心を促す試みがなされている。

図2-42.サメフライパニーニ(左)/ シャークナゲット(右)
図2-42.サメフライパニーニ(左)/ シャークナゲット(右)
図2-43.ドチザメ(2022年6月4日撮影)
図2-43.ドチザメ(2022年6月4日撮影)
図2-44.レストランのポスター
図2-44.レストランのポスター

「おいしいパンの店 ソフィー」では、土曜日限定で、サメバーガー(「サメ★バーガー」)が販売されている(図2-44)。販売トレーには、サメが上越のソウルフードであることや、ソースには地元の山本味噌醸造場の味噌てりやきソース「みそてりっ」を使用していることが表記されている。「サメ★バーガー」は、自家製のパンに「みそてりっ」をかけたサメフライとレタスをサンドしたものである。

図2-45.「おいしいパンの店 ソフィー」の外観
図2-45.「おいしいパンの店 ソフィー」の外観
図2-46.「おいしいパンの店 ソフィー」の店内
図2-46.「おいしいパンの店 ソフィー」の店内
図2-47.「サメ★バーガー」(2022年(令和4年)6月4日撮影)
図2-47.「サメ★バーガー」(2022年(令和4年)6月4日撮影)

「有限会社 西沢珍味販売」からは、「鮫のワインづけ」と「鮫の清酒づけ」が販売されており、市内の物産店や新潟県のアンテナショップ等で購入することができる。「鮫のワインづけ」は上越市の「岩の原ワイン」を、「鮫の清酒づけ」は同じく市内の清酒「能鷹」を使用していることも特徴であり、いずれも上越市の地域ブランドである「メイド・イン上越」に登録されている。

図2-48.鮫の清酒づけ(左)/ 鮫のワインづけ(右)
図2-48.鮫の清酒づけ(左)/ 鮫のワインづけ(右)

道の駅「マリンドリーム能生」内にある、「新潟海洋高校アンテナショップ能水商店」ではサメのフィッシュ&チップスが販売されている。メニューにはサメの他に、タラと「本日のフィッシュ&チップス(訪問日はメギスとアンコウ)」があった。店長にインタビューを行ったところ、上越地域では昔からサメを食べる文化があるためメニューにサメを入れたことや、サメはモウカザメを使用していることを聞くことができた。また、上越地域出身の従業員の方からは、学校給食でサメを食べた経験があることを、直接聞くことができた。

図2-49.「新潟海洋高校アンテナショップ能水商店」外観
図2-49.「新潟海洋高校アンテナショップ能水商店」外観
図2-50.「フィッシュ&チップス」のメニュー表
図2-50.「フィッシュ&チップス」のメニュー表
図2-51.「フィッシュ&チップス」(2022年(令和4年)5月3日撮影)
図2-51.「フィッシュ&チップス」(2022年(令和4年)5月3日撮影)
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